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経営承継円滑化法

1.概要

経営承継円滑化法とは、中小企業庁の主導で2008年から施行している、事業承継の推進を目的とした法案、特例です。
経営承継円滑化法は以下の3本柱によって成り立っています。

①事業承継税制

後継者が負担する相続税や贈与税が軽減、または0になる。

②遺留分に関する民法の特例

事業承継によって相続、贈与された自社株式の金額を除外して相続、贈与の計算ができる。

③金融支援

後継者が株式を買い取るための費用を日本政策金融公庫や沖縄振興開発金融公庫から低金利で借り入れられる。
事業承継に臨む場合、信用保証協会の通常の保証枠にプラスして別枠の保証枠を利用できる。

2.事業承継税制

(1)概要

後継者が非上場会社の株式等(法人の場合)・事業用資産(個人事業者の場合)を先代経営者等から贈与・相続により取得した場合において、経営承継円滑化法における都道府県知事認定を受けたときは、贈与税・相続税の納税が猶予又は免除されます。
事業承継を行う事業者の業種に制限があったり、事業承継を果たした後継者に「経営者を降りてはいけない」という決まりがあったりと細かな制約が課されています。
そのため、利用する場合は取り決めを詳しく見ておくことが必要です。
すでに後継者を十分育成できている場合に有用です。
平成30年改正により、法人版事業承継税制に「特例措置」が加えられ、事業承継後5年間80%の雇用維持ができなかったとしても、引き続き納税猶予を受け続けることができるようにされたことなどから、利用件数が増えました。

なお、同改正は2027(令和9)年12月31日までの時限立法措置です。

(2)問題点

①毎年の届出書の提出が負担

事業承継税制の利用開始から5年間は、毎年、継続届出書を都道府県と税務署に提出しなければいけません。

また、5年経過後は3年に1度の提出でよくなりますが、万一、届出書を提出し忘れた場合には、納税が確定してしまいます。

②打ち切り事由に注意

事業承継税制では、5年間は、代表取締役を継続し、1株も手放してはいけませんし、他にも多くの細かな制約があり、知らずにそれらに反してしまうと、その時点で納税猶予が打ち切られてしまいます。

③対応できる専門家が少ない

事業承継税制は免除にまで導くことができれば恩恵は非常に大きいのですが、その過程においては落し穴がたくさんあり、対応できる税理士が少ないと言われています。

④M&A(合併買収)に注意

事業承継税制の適用を受けた場合には、その株式を売却したら、猶予されている税額を全額納税しなければいけませんから、M&A(合併買収)で手にした現金から納税する必要があります。

なお、事業承継税制を適用した時と、M&A(合併買収)をした時の株式の評価額を比べて、後者の方が低ければ、猶予されている税額の一部が免除されます。

⑤専門家に払う手数料がかかる

顧問税理士が事業承継税制や相続税や贈与税全般に詳しくない場合には、事業承継の部分だけを他の税理士に依頼することになります。
その場合、事業承継コンサルティングに関する費用が発生します。
会社規模や作業内容などによりますが、相応の費用がかかります。
制度の適用を受けるかどうかは、後継者になる方が慎重に検討をした上で、申請すべきです。

3.遺留分に関する民法の特例

(1)内容

一定の要件を満たす後継者のいる企業については、先代経営者の遺留分権利者全員によって次の内容に合意し、所要の手続きを経ることによって以下の遺留分に関する民法の特例を受けることができます。

①の除外合意と②の固定合意の双方、または、いずれか一方の合意をする必要があります。
これらの合意をした場合には、それと併せて③の付随合意をすることができます。

①先代経営者から後継者が贈与を受けた株式等について遺留分算定の基礎財産から除外する合意(除外合意)

⇒この合意ができれば、後継者に自社株式を集中しても遺留分減殺請求をされることがなく、株式の分散を防ぐことができ、後継者の安定した経営権を確保することができます。

②先代経営者から後継者が贈与を受けた株式等の評価額をあらかじめ固定する合意(固定合意)

⇒通常の制度においては、生前贈与した自社株式の評価は相続発生時の時価によるため、生前贈与を受けた後継者は、自身の頑張りによって会社の業績を上げれば上げるほど、遺産の総額が増えるために相続税はあがり、遺留分は増加し、さらには遺産分割協議を困難にしてしまう可能性もあります。
この制度では、生前贈与株式等の評価を合意時点の評価額に固定することができます。
なお、もし株価が下落した場合には後継者に不利な合意になってしまうので、慎重な検討が必要です。

③後継者が贈与を受けた株式等以外の財産や後継者ではない者が贈与を受けた財産について遺留分算定の基礎財産から除外する合意(付随合意)

⇒後継者ではない相続人への生前贈与等について遺留分算定の基礎財産としないことをオプションで合意することにより、後継者ではない相続人への生前贈与等についても遺留分減殺請求をされることがなく、後継者と後継者ではない相続人間の贈与のバランスをとることで推定相続人間の合意の形成に役立ちます。

(2)手続き

①後継者と推定相続人で合意書を作成する
②合意書が完成したら、1ヶ月以内に経済産業大臣へ申請を行う
③経済産業大臣の確認が下りたら、1ヶ月以内に家庭裁判所へ申し立てを行う
④家庭裁判所の許可が下り、手続きが終了する

(3)問題点

遺留分特例制度は、要件が多岐にわたり、経済産業省と裁判所の双方の確認と許可が必要です。
そのためか、利用状況は低いと言われています。

4.金融支援

事業承継時に必要となる資金は多岐にわたり、会社にとっても後継者にとっても大きな負担となります。
資金が用意できないために事業承継をあきらめる企業も少なくありません。
経営承継円滑化法の金融支援によって、こうした資金の問題を緩和、解決することができます。

金融支援の内容は、以下の2つに大別されます。

①低金利融資

事業承継を行う会社や後継者が資金を必要としている場合に限り、日本政策金融公庫や沖縄振興開発金融公庫から通常よりも低い金利で資金の借り入れができるようになりました。

融資限度額:7億2000万円
融資利率:0.81%(通常は1.21%)の特別利率

株式の買取資金や相続税、贈与税の納税資金としても活用できます。

②信用保証

経営承継円滑化法に基づく認定を得た会社及び個人事業主が、事業承継に関する資金を金融機関から借り入れる場合には、信用保証協会の通常の保証枠とは別の保証枠が用意されます。
これにより、金融機関からの借り入れのハードルが大きく下がります。

この記事の執筆者
むさしの相続法務事務所・武蔵野経営法律事務所 代表 加藤 剛毅
保有資格弁護士 埼玉弁護士会 第31907号
専門分野相続案件・不動産案件・中小企業法務
経歴2002年 司法試験合格/2014年 さいたま家庭裁判所家事調停官任官就任/2018年 当事務所開設
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